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2005.01.25

■陶喆●新たな高みを目指す二年半ぶりのニューアルバム■

ASIEN第232号

太平盛世 前作《黒色柳丁》から二年五ヶ月あまり、待望久しかった陶喆(デビッド・タオ)四枚目のアルバム《太平盛世》が登場です。《黒色柳丁》では9/11の同時多発テロに触発された曲作りもしていた陶喆ですが、そうか、もうそんなに経つのですね。年が明けてからこのかた、この新盤に対する前評判はかなりなもので、CDショップで一月十日から発売された予約盤もなかなかの売れ行きだったよう。筆者も、店頭でごっそり買い占めている人を見かけましたが、あれはどういう「筋」のかただったのでしょうねえ。

 今回のアルバム、社会や政治状況に対する陶喆の考えが前作よりも強く打ち出されているようです。アルバムタイトルは《太平盛世(太平の世)》ですが、これは「今は本当に『太平の世』なのか?」という強烈な反語であるよし。こうした危機感はメインナンバーの《鬼》に最も強く打ち出されています。“鬼”は北京語で幽霊とか「もののけ」の意。同曲のMVも映画『ゾンビ』を思わせるホラー映画的な演出となっています。とはいえ今回のアルバム、何かに挑みかかるような実験性は少々影をひそめ、より上質で落ち着いた音楽の境地を目指した姿勢が感じ取れます。

 発売の前日、一月二十日からChannel[V]で放映が始まった《愛我還是他》のMV、十分近くはあったでしょうか、最後にはタイトルロールも流れる短編映画といったおもむき。陶喆自身に加え、張藝謀〈チャン・イーモウ〉監督の映画《有話好好説》でヒロインを演じていた瞿穎(チュイ・イン)と、ファッションモデルの林可彤(リン・クートン)が競演。これは張愛玲(チャン・アイリン)の小説《紅玫瑰與白玫瑰》をシネマライズしたもので、台北と、張愛玲ですからもちろん上海が舞台に選ばれ、ロケが行われました。

 ドビュッシーの『ベルガマスク組曲』第三番『月の光』がかすかに流れる中、陶喆は三角関係のはざまで揺れる主人公を演じており、かなり激しく女性の唇を奪うシーンなど熱演を披露しています。なんでもこのシーン、NGを出すことなくたった一回でOKになったそうで、相手役の瞿穎や監督の林錦和(リン・ジンハー)も賞賛することしきりだったよう。このMVには彼女と一緒にベッドに入るシーンもありますが、こちらはそれほど「激しい」ことにはなっていません(笑)。

 さてこの四番目のアルバム、陶喆としては心機一転、前作までの三枚を「三部作」としてひとつの区切りをつけ、新たな「進歩」を目指したものだそう。もともとロックへの志向が強い陶喆ですが、今回のアルバムでは上述の《鬼》をはじめとして、中華的な音源が楽曲に深みを与える《孫子兵法》や、“狗仔隊(パパラッチ)”を皮肉ったとおぼしき《SULA與LAMPA的寓言》などロックテイストの曲がまずはいくつか。

 加えて《Angel》を彷彿とさせる《CATHERINE》や、静謐な雰囲気漂う《她的歌》など、ほっと一息つけるやさしい響きのナンバーも健在。京劇《玉堂春》の主人公・蘇三から取ったと思われる《SUSAN説》という曲では、“蘇三離了洪桐縣,將身來在大街前……”というセリフを京劇調の節回しで挿入していて、なかなかおもしろいです。“蘇三”の北京語読み“Su1san1”と「スーザン」という欧米人の名前をかけているのですね。これはもちろん、京劇の俳優でもあった母親の王復蓉(ワン・フーロン)へ捧げる一曲でしょう。また彼女のイングリッシュ・ネームは「キャサリーン」だそうですから、《CATHERINE》を母親に捧げた曲と読み解くこともできます。一方《她的歌》は英題が“SONG OF ANITA”となっていて、これは一年あまり前に亡くなった梅艶芳(アニタ・ムイ)に捧げる小品のようです。

 このアルバムは、発売元であるEMIの方針でCCCD(コピー・コントロール・CD)となっています。各社が相次いでCCCDからの撤退を表明するなか、いまだにこだわり続けるのはなぜ? 陶喆が長い充電期間を経て、すみずみにまで自らの美意識を反映させたていねいな作りのアルバムに仕上がっているだけに、そこだけがとても残念です。(銭衝)

 オフィシャルサイトはこちら。http://www.davidtao.com/

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