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2005.03.24

■周杰倫●「愛国主義歌曲」選定に漂う違和感■

ASIEN第240号

 周杰倫(ジェイ・チョウ)の《蝸牛》が「愛国歌曲」に――。先週台湾で、非常に地味な内容ながらひときわ目をひいたニュースがこれ。上海市の教育委員会が中学生に対して推薦する百曲の「愛国主義歌曲」、その一つに選ばれたというのですが、折しも大陸の全人代における、台湾独立を阻止するためには武力行使も辞さない旨を明記した「反国家分裂法」の採択と相まって、台湾ではかなり話題になりました。最初このニュースにテレビで接した際、私はテロップの《蝸牛》をなぜか《鬥牛》と見間違えてかなりとまどいました。周杰倫のファーストアルバムに収められたあのラップもクールな《鬥牛》が「愛国主義歌曲」?……と。

 《蝸牛》はアルバム《范特西》の特別バージョン《FANTASY + PLUS》についてくるEP盤に収められている、周杰倫作詞・作曲の作品。確かもともとは許茹芸(ヴァレン・シュー)や齊秦(チー・チン)・動力火車(パワーステーション)・熊天平(パンダ・ション……最近とんとお見かけしませんが)らに提供した台湾基金会のチャリティ・ソングだったはず。一歩一歩前を向いて歩む意志をカタツムリになぞらえた歌詞は、なるほど健全で「愛国歌曲」に選ばれるのもわからなくはありません。それでも漂ってしまうこの違和感はいかんともしがたいものがありますねえ。

 この「愛国歌曲」にはほかに劉徳華(アンディ・ラウ)の《中國人》や、今年の春節聯歓晩会で成龍(ジャッキー・チェン)が勇ましく歌っていた《真心英雄》なども選ばれています。こちらは何となく得心がいくラインナップ(笑)。ただ一ファンとしては、アーティストの個人的な心情や政治的立場はともかく、ポップスの楽曲を政治とあまり絡めてほしくないですね。私見ですが、劉徳華や成龍はともかく、周杰倫がこういう扱いを喜ぶとは思えませんし。まあ上海市教育委員会からすれば、んなこと「知ったこっちゃない」んでしょうけれど。(銭衝)

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2005.03.16

■辦桌二人組●人情味あふれる若手台湾語デュオ■

ASIEN第239号

我的阿娜達 台湾語で歌う男性デュオ“辦桌二人組”四枚目のアルバム《我的阿娜達》が発売になりました。台湾でもヒットチャートのほとんどは、いわゆる“港台(香港と台湾)”の北京語ポップスが占めているなかにあって、CDショップでも売り上げの上位に食い込めているのは彼らだけかもしれません。

 もちろん五月天(メイデイ)や、最近ベストアルバムを出した張宇(フィル・チャン)をはじめ、台湾語の曲に愛着を持っているアーティストは多いですし、台湾には他にも様々な年代の台湾語歌手がたくさんいます。それでもこうして台湾語歌手が“港台”ポップスに混じって売り上げで健闘している存在はそれほど多くはなく、この「二人組」はとても貴重な存在といえるでしょう。

 阿傑こと馮韋傑(パン・ウィッケ)と阿龍こと龍力維(リゥ・ラッゥイ)の“二人組”、彼らがデビューしたのは二〇〇二年のこと。当時進められていた旧高雄駅舎(日本統治時代の建築です)の移設工事とタイアップで、《再會啦!車站》というアルバムを発表、一躍話題となりました。現在の行政院長(日本の総理大臣に当たる)である謝長廷氏が当時の高雄市長で、このアルバムの企画にも参加したそうです。美しいハーモニーの男性デュオということで、デビュー当時は台湾語版の“無印良品”などと評されました。

 ユニット名の“辦桌”というのは台湾で冠婚葬祭時によく見かける「仕出しサービス屋さん」のこと。道路脇や路地を借りてウナギの寝床のようなテントを張り、テーブルと椅子を並べ、食事の用意をし、必要に応じて宴会を盛り上げる藝人さんの手配までする……。二人はともにこうした家業を営む両親の元で育ったのだそうです。南国台湾の風情色濃いこうした“辦桌”業、二人の歌に流れる「人情味」はそんな生い立ちに育まれたものなのかもしれません。

 「人情味」と書きましたが、そう、このユニットの楽曲はどちらかというと、いやかなり素朴な、時に演歌に近い雰囲気を持っています。今回のアルバムタイトルである《我的阿娜達》、《阿娜達》は「アナタ」と発音し、これは台湾語に今も多く残されている日本語のひとつ。こうした言葉を折り込むことで、なんとも土着的なノスタルジーあふれる楽曲作りを目指しているようです。私は台湾語をほとんど解しませんが、それでも彼らの歌を聴きながら歌詞集に目を走らせていると、とてもほのぼのとした温かいものを感じます。

 このアルバムには、収められた十曲のほかにいくつかの曲についてカラオケ版がついています。きっと宴会などでも大いに利用されていくのでしょうね。なにしろ台湾のみなさん、台湾語の歌にあわせて音頭を取っているときは、明らかに北京語より体温が上がっている、そんな感じがするかたたちですから……。(銭衝)

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2005.03.10

■阿桑●清冽な雰囲気をたたえたセカンドアルバム■

ASIEN第238号

寂寞在唱歌 阿桑(アサン)のセカンドアルバム《寂寞在唱歌》を聴きました。冬から春にかけて朝晩はまだまだ冷え込むことも多いこの時期にぴったりの、清冽な雰囲気をたたえた一枚になっています。台湾の各種メディアでは、声の質も表現力も前回より格段にアップしたと評されている今回のアルバム。確かにこの人のかすかにハスキーさを感じる歌声は、ついついじっくり聴き入ってしまう魅力を持っています。

 今回のアルバムで特徴的なのは、シンプルかつ静謐な雰囲気で全体がまとめられていること。収められた十の楽曲はどれもピアノや弦楽器など最小限の伴奏がついているだけで、およそデコラティブなアレンジとは無縁です。アルバムジャケットからして、“預購盤(先行予約時に頒布されるデモ版CD)”かと見まごう薄い紙製の簡便なスタイル。歌詞集も黒とえんじ色のダブルトーンによる上品で繊細な作りで、「純粋に歌で勝負」という阿桑のスタンスがそこここに感じられます。

 メインナンバーの《寂寞在唱歌》はMichael Cretu(この人、プロデュース・ユニット「エニグマ」の仕掛け人ですね)が一九七九年に発表した“Moonlight Flower”のカバー。これだけ実力のある歌手なんですから、何もメインにカバー曲を持ってこなくてもと個人的には思ってしまいますが。もうひとつ、中島みゆきばり(?)に泣き声まじりで歌う《瘋了》は、Pet Shop Boysの“Mad World”のカバーです。この他にも先週ご紹介した蔡健雅(ターニャ・チュア)作曲の《保管》や、方文山(ヴィンセント・ファン)作詞による《一直很安靜》など、聴きどころがいっぱい。

 このアルバムの太っ腹なところは、さらにボーナスVCDとして《瘋了》《寂寞在唱歌》《被動》《保管》のカラオケ用MVがついていること。特に《瘋了》は、昨年公開されたオリヴィエ・アサヤス監督の映画《錯的多美麗(Clean)》の中文版主題歌になっていて、張曼玉(マギー・チャン)が主演した同作品の画面が楽しめます(台湾発売盤のみだそうなので、ご注意)。蛇足ですが、オリヴィエ・アサヤスって確か張曼玉の元ダンナさんでしたよね。(銭衝)

 オフィシャルサイトはこちら……http://www.him.com.tw/ASun/

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2005.03.01

■蔡健雅●独特のセンスを感じさせる安定した歌唱力■

ASIEN第237号

Amphibian 蔡健雅(ターニャ・チュア)のニュー・アルバム《Amphibian》が堅実なヒットを続けています。二月の初めに発売されたこの新作、約ひと月経つ現在でもCDショップの売り上げベストテンにとどまり、テレビなどでも収録曲が繰り返しオンエアされています。アルバムの中文タイトルは《雙棲動物》、両生類という意味。一瞬ぎょっとするようなネーミングですが、これは心が離れかけている恋人を異なる環境に適応する「両生類」に例えて、「私はあなたみたいにいろんな環境に適応できない。あなたの愛があるところでしか生きていけない」と歌うもの。なかなか個性豊かな比喩ですねえ。

 蔡健雅はシンガポール出身のシンガー・ソングライター。もともとは作曲家としてさまざまな歌手に楽曲を提供していましたが、一九九七年に自らも歌手としてデビュー。このときは英語の歌を収めたアルバムでした。その後も北京語と英語のアルバムを着実に発表し続けており、実力派歌手としてアジア全域の華人社会で人気があります。

 低音から高音まで安定した歌唱力をみせる彼女の歌声は今回も健在。物憂げな歌い方からはじけるようなサビへの変化が印象的な《假想敵》、軽やかな歌い方ながら複雑なメロディラインが「技術」を感じさせる《優先權》、とめどなく拡散するタバコの煙を彼の愛に例えた《二手煙(副流煙という意味)》など聴きごたえのある曲ばかり十一曲が収められました。それにしてもこの人の歌の題名は独特のセンスがありますね。もうひとつの聴き所は、最後に収められている《原點》。これは孫燕姿(ステファニー・スン)とのデュエットですが、二人の声の質が近いこともあって、しっくりと溶けあった見事なハーモニー。息のあったところを見せています。そういえば孫燕姿もシンガポール出身でしたね。

 このほか今回のアルバムにはボーナスVCDがついています。《雙棲動物》と《假想敵》のほか、前回のアルバムに入っていた《無底洞》と《陌生人》の合計四曲。ドラマで人気のある賀軍翔(マイク・ハー)と歐陽靖(オーヤン・ジン)が共演した《雙棲動物》と《假想敵》が話題になっています。もう一方の《無底洞》と《陌生人》は、映画《藍色大門(邦題:藍色夏恋)》の桂綸美(グイ・ルンメイ)と、《十七歳的天空》のDuncanこと周群達の共演。こちらも貴重です。(銭衝)

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